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ヴァシュロン・コンスタンタン ユニークピースが証明する古の時計製造

100年前の部品と100年前の技術を用いて作られたアメリカン 1921 ユニークピースは、タイムカプセルのような腕時計だ。

多くの場合、素敵な時計を見ると、“ハンドメイド”や“ハンドフィニッシュ”といった言葉が出てくる。だが、多くの現代の時計の場合、実際の手作業の量は意図的に最小限に抑えられている。

 これには2つの理由がある。まずひとつに、手作業での組み立てや仕上げは、部分的ないしは完全に自動化された製造工程と比べると時間がかかり、年間数万~数十万個の時計を製造する場合には、単純に現実的ではないからだ。

 2つめの理由は、一般的に自動化に比べて精度が低く、信頼性の高い時計を作ることができないからだ。これは、手作業が必要ないということではない。時計の針をセットする作業は、しばしば完全に手作業、または半分手作業で行われ、時計の針を合わせるのも同様だ。組立工程では、大量生産であってもロボットではなく人間が行うこともある。しかし、現実的な理由から、時計産業はできる限り手作業から遠ざかってきた。ウォルサムやエルジンなどのアメリカの巨大な時計工場は、19世紀後半には工芸品ではなく工業化の奇跡を起こし、ヨーロッパのメーカーもすぐに追随した。

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だからこそ、ヴァシュロン・コンスタンタンの新しいユニークピースが注目されるのだ。アメリカン 1921 ユニークピースは、1921年に製作された時計を忠実に再現したものだ。この時計は、ヒストリークコレクションのいくつかのモデルにインスピレーションを与え、総称して、アメリカン 1921ウォッチと呼ばれている。

現代のモデルは、ほぼ全ての高級時計と同様に、自動化された工程(例えば、地板やブリッジはコンピュータ制御のCNCマシンで加工されている)と、手作業による仕上げや調整を組み合わせて作られている。しかし、アメリカン 1921 ユニークピースは、ほぼ全ての工程が1920年代以前の手作業による技術を用いて製造された。しかも、部品は可能な限り、ヴァシュロンのアーカイブにある膨大なニューオールドストックパーツの中から選んだものを使用。これには、ムーブメントの全ての可動部品(歯車、ピニオン、テンプ、脱進機)やブルースティールの針も含まれる。このモデルは1921年に製造されたもので、1928年にアメリカのリベラルなプロテスタントの有名な牧師、S.パークス・キャドマンに売却された。キャドマンは、ラジオを使った福音伝道の先駆者だ。1928年4月18日に彼がヴァシュロン・コンスタンタンから購入した腕時計は、彼の革新への嗜好が腕時計にも及んでいたことを示している。

腕時計の誕生とオリジナルの“1921”について

キャドマンの時計は、昔も今も、あえて他とは違うデザインを採用している。クッションケースは、当時としてはそれほど珍しいものではなく、第一次世界大戦が終わると、多くの時計メーカーがラウンド以外のケース形状を試みた。また、特に世界恐慌で世界情勢が悪化する以前は、アール・ヌーヴォーやアール・デコの影響を受け、ケースやダイヤルデザインに非常に多くの創意工夫が見られる。しかし、このキャドマンの時計は、巻上げと設定のためのリューズが、ケースの3時位置ではなく、11時位置にあるという非常に珍しいものだった。また、ダイヤルは通常の位置から反時計回りに回転し、リューズの真下に数字の“12”が配置されている。

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左がアメリカン 1921 ユニークピース、右がキャドマンウォッチ。

オリジナルのキャドマンウォッチをベースにした時計は全て“アメリカン 1921”と呼ばれているが、実はヴァシュロンのアーカイブには、このデザインの1つ前のバージョンがあり、1919年に完成している。そのモデルは、ラジウム塗装されたアラビア数字のダイヤルをもち、リューズは左上ではなく右上に配置され、ダイヤルも右に回転している。

これは、なぜこのような比較的面倒な場所にリューズを置いたのか、なぜダイヤルを回転させて12の位置を直感に反する位置にしたのかという興味深い問題を提起している。アメリカン 1921にまつわる都市伝説として、元々はドライバーズウォッチとして設計されたというものがある。ドライバーズウォッチとは、ハンドルから手を離さずに時刻を読み取ることができる時計のことだが(当時、アームストロング・ヘップワース コンチネンタル・マークVIIIには8日巻きのダッシュボードクロックが搭載されていたと思われる)、一般的にはパルミジャーニ・フルーリエのブガッティ・タイプ370のように、ダイヤルがムーブメントのプレートに対して垂直に配置されている時計のことを指す。さらに、ヴァシュロンのヘリテージ&スタイル・ディレクターであるクリスチャン・セルモニ氏は、ヴァシュロンのアーカイブには、これらの時計がドライバーズウォッチとして意図されたものであるという推測を裏付ける証拠は一切ないと何度か述べている。

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私は長年、アメリカン 1921がドライバーズウォッチであることを当然のことと考えていたが、もっと早く疑わしいと気づくべきだった。ちょっとした何気ない観察とわずかな批判的思考があれば、アメリカン 1921に運転中に読みやすくなるような特徴がないことは明らかだったはずだ。では、何が理由なのか? それは、リューズとスモールセコンドの相対的な位置関係にヒントがある。リューズが上、スモールセコンドが下というのは、まさに懐中時計のムーブメントのような配置だ。

1919年製の時計とアメリカン 1921のムーブメントは、懐中時計に収められるように構成されていた。このデザインは、自動車とは関係なく、ヴァシュロンが懐中時計のムーブメントを使って腕時計をデザインするという、創造性を発揮したものだと思う。セルモニ氏は、2008年にヴァシュロンがこのデザインを再発表することを決めた時、ヴァシュロンが1919年製の時計とアメリカン 1921に抱いた疑問と同じことを自分たちに問いかけたとも語ってくれた。そして最終的にはもちろん、1921年に初めて採用された構成を選んだ。現行のヒストリーク・アメリカン 1921は、オリジナルとは対照的に、スモールセコンドのダイヤルがリューズから180°ではなく90°ずれている。これは、現行モデルが、当初から腕時計用のムーブメントとして設計されたキャリバー4400 ASを搭載しているためだ。

 その理由はともかく、私はこの作品が創造的な発想の賜物だと思っている。簡単な方法は、リューズを通常の位置に配置し、秒表示を9時の位置にレイアウトすることだが、ヴァシュロンはこの挑戦に身を投じることで、非常に魅力的で興味深いものを生み出した。同社が好んで言うように、ひねりの効いた時計だ。

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